美しさとは、外見だけではない。内面を磨くこともまた、美しさの一つ。で、たまたま偶然、東京都に滝行ができる場所を見つけたので、行ってみた。何事も挑戦。
というわけで今回は、滝行に興味あるけど何するんだろうって人のために、ぼくの体験談を書いていく。
滝行とは
滝行(たきぎょう)とは滝に入って行う修行のこと。垢離の一種で、水行と呼ばれることもある。
宗教学者の鎌田東二さんは、滝行を以下のように定義している。
滝行とは、滝場に顕現する神仏や諸霊への畏怖・畏敬の念に基づき、滝の水流を全身に受けることにより、 ある目的(解脱・霊験・法力・活力を得る、 悩みの解除・祓い、 武道やスポーツの技量の向上など)を達成すべく、 心身を鍛錬する日本の伝統的な身体技法である
ソースは全部Wikipedia。
滝行をしようと思った理由
で、なんで滝行を、それも冬にしようと思ったかというと、冬と言えば年末、年末と言えば一年の振り返り。
滝行をしながら自分を振り返ることで、清い心で新年を迎えたいと思ったから。
なんて高尚な理由はなく、YouTuberが滝行してるのを見て、「そう言えば人生で滝行したことなかったな。わいもやってみよ」と思ったから。
滝行場所の候補
で、滝行をするにあたり、関東で滝行できる場所をいくつか探した。
選定の基準としては、以下。
- 行きやすさ(車無くても行けること)
- 料金の安さ(せめてもろもろ込みで10,000円未満) ※
- 滝っぽさ(チョロチョロよりドバーッって感じがいい)
※料金は2022年12月時点
高尾山薬王院
候補1は、高尾山薬王院。東京都八王子市にあり、蛇瀧と琵琶瀧の2種類の滝がある。
- 行きやすさ:○(蛇瀧は電車とバス、琵琶滝は電車と徒歩)
- 料金の安さ:△(10,000円)
- 滝っぽさ(蛇滝):△(写真見る限りチョロチョロ)
- 滝っぽさ(琵琶滝):○(ドバーッ)
琵琶滝はかなりありだったが、最近高尾山に登ったばかりで、行っても物珍しさ感じれなさそうだったのでやめた。
梅松山円泉寺
候補2は、梅松山円泉寺。東京都檜原村にあり、九頭龍の滝と龍神の滝の2種類の滝がある。
- 行きやすさ:○(電車とバス)
- 料金の安さ:○(5,000円)
- 滝っぽさ:○(ドバーッ)
全てが理想的だった。が、男性は褌とハチマキの恰好らしく、褌に抵抗があったぼくはやめた。ぼくは行衣を着たい。
足柄修験の会
候補3は、足柄修験の会。神奈川県足柄市にあり、夕日の滝がある。
- 行きやすさ:○(電車)
- 料金の安さ:○(9,000円)
- 滝っぽさ:○(ドバーッ)
九頭龍の滝と龍神の滝よりは高いが理想的だったし、何度も撮影で使われているくらいに有名。凄く惹かれた。予約状況を公式サイト上で確認できることも惹かれた。
臼杵山 天光寺
候補4は、臼杵山 天光寺。東京都檜原村にあり、滝の種類はわからなかった。
- 行きやすさ:○(電車)
- 料金の安さ:○(半日コース6,000円、日帰りコース8,500円)
- 滝っぽさ:○(ドバーッ)
行衣を着れるし、何度も撮影で使われているくらいに有名。なにより、日帰りコースなら精進料理が食べられる。食べたい。
という感じで、食欲という煩悩に従い、天光寺さんで滝行することにした。煩悩は大切。
臼杵山 天光寺の概要
今回の滝行場所とした天光寺は、東京都西多摩郡檜原村にある、仏教真言宗のお寺。
滝行の他にも、写経、念仏、瞑想、ヒーリング、川行、お百度参り、寺ヨガなど、たくさんの修行体験が用意されている。日数も、半日・日帰りコースから宿泊コースまで様々。
企業研修やYouTuberの企画でも使用されており、門戸の開かれたお寺と言える。
申し込み
申し込みは、公式サイトのお申込みフォームから実施。
申し込み後、しばらくしてから案内メールが届く。で、案内メールを読んだあと、天光寺に電話をかけて、予約確定。電話では、人数とか交通手段とか、申込フォームで書いた内容の再確認をされた。
電話の必要性はよくわからなかったけど、たぶん注意事項を読まない人対策だと思う。
アクセス
で、当日は朝から移動。天光寺は、とても遠い。東京と言いつつ、23区の外。西の方。
電車とバスを乗り継がなければ到着しない。
最寄り駅は武蔵五日駅
天光寺の最寄り駅は、武蔵五日市駅。
武蔵五日市駅へ行くには、八王子駅からJR八高線、あるいは立川駅からJR青梅線で拝島駅へ行く。で、拝島駅からJR五日市線に乗り換え、終点が武蔵五日市駅。
JR五日市線は電車のペースが15分に1本なので、東京の中では本数少なめ。
JR五日市線沿いは田舎
東京の果てだけあって、武蔵五日市駅に近づけば近づくほど、窓から見る景色の高い建物は消え、平屋と田畑が増えて行く。東京にもまだこんな場所があったのかと、感慨深くなった。
武蔵五日市駅は登山客だらけ
武蔵五日市駅に着いてバス停を探すと、登山装備をした高齢者集団に遭遇。どうやら、武蔵五日市駅の西の方には、秋山渓谷があって、絶好の登山スポットらしい。
バスには無事座れなかった。早起きでは高齢者に勝てない。
バスで40分
バスに乗ってごとごと揺れること40分。
乗客たちは次々と降りていき、まるで千と千尋の神隠しの電車。
天光寺の最寄りである「小和田坂」に着くころには、ぼくと同じく滝行目当ての乗客しか残っていなかった。降車した後、空っぽになったバスを見送った。
バスの運転手さん、空っぽのバスで一人カラオケ大会開催してもバレない。
天光寺
「小和田坂」のバス停で降りて、バスが来た方向へ引き返して歩くこと10分。天光寺に到着。他の乗客を先頭に、ぼくは後ろをついて行く。
寺に入ると、名前と体験内容を確認され、全身にアルコール消毒液をかけられる。その後、仏様の在る広間へと通される。
参加者は5人
参加者はぼくを含めて5人。ほとんどが1人参加者。
1人は、YouTubeで滝行を見て、家から近いからと来たらしい。日帰り組。
1人は、会社の研修で来たらしい。会社の研修なのに一人参加ってどういうこと。一泊二日組。
残りの2人は、友達同士での参加。一泊二日組。
なお、ぼくは日帰り組。
写真は禁止
ちなみに、寺院内で許可のない写真撮影は禁止。なので写真は撮ってない。
許可をとれば動画撮影もできるらしい。実際、YouTubeにちらほら動画が上がっている。
誓約書とお布施
広間でやることは4つ。
- ベストを羽織る
- 誓約書を書く
- お布施を渡す
- 貴重品を預ける
後、どこかのタイミングで寺の中の紹介と荷物を荷物置き場に置く作業があったんだけど、忘れた。
ベストを羽織る
まず最初に、配られる白いベストを羽織る。
天光寺にいる間は常に、この白いベストを着用しておく必要がある。
誓約書を書く
次に、誓約書を書く。
天光寺が定めたルールを守りますとか、修行中に事故が発生する危険性を承知したうえで修業します、とかそんな感じ。ありがちなやつ。
お布施を渡す
次に、お布施を渡す。
事前に用意された封筒にお布施を入れて、仏様へお渡しする。お渡しする際も、指定された順で礼をしたり、お線香をあげたりと、作法に基づく。
貴重品を預ける
次に、貴重品を預ける。
天光寺には荷物を置く部屋もあるが、天光寺にいる人は誰でも自由に入れるため、貴重品は別管理。財布や鍵を、透明なケースに入れて提出。
なお、スマホについては滝行中の様子を撮りたい人は持ってていいとのことだったので、預けなかった。もちろん、管理は自己責任。
作法の勉強
もろもろの準備が終わったら、いよいよ体験修行の開始……の前に、修行の作法を勉強する。
挨拶
まずは仏様に、今から修業を始めますの挨拶をする。
天光寺では、修行の開始終了の挨拶、ご飯を食べる前の挨拶、起床就寝の挨拶が決まっていて、挨拶の一覧が書かれた紙を渡される。
で、挨拶の練習から始まる。挨拶大切。
合掌
次に、合掌を練習する。
合掌とは、仏様(右手)と自分(左手)を合わせ、仏様と一体になるという儀式。
一般的に知られている合掌の形は、両手の指の隙間を閉じて、両手の指をピタッと合わせる形。
対して、天光寺では、両手の指に少し隙間を作り、右手を手前にずらし、左手の指の間に右手の指がすぽっと収まる形。一般的な合掌よりも右手と左手ががっちりと合わさり、仏様とより強固に一体となれるらしい。
お経
次に、お経を読む。
体験修行のメインは「お百度参り」と「滝行」だが、どちらもお経を唱えながら行う。お経本を見ながら、体験修行で使うお経だけをピックアップし、唱える練習をする。
お経によっては、動き(立ち上がって座る)を要するものもあった。動きのあるお経、初めて知った。
食事
たくさん発声してたら、すぐにお昼時。食事をする部屋へ移動。
もちろん食べる前は、習ったばかりのご飯を食べる前の挨拶を行う。いただきますを、ものすごく長く言う感じ。
精進料理
昼食には当然、肉や魚は入ってなかった。精進料理。
とろろとご飯、野菜とキノコ中心のスープやサラダや筑前煮っぽい料理。見た目は質素だが、充分お腹いっぱいになる。
食器洗い
で、食べ終えたら食器は自分たちで洗って片付ける。
自分のことは自分でやる。人生のルール。
お百度参り
着替え
食事を終えたら、休憩時間兼お着換えタイム。
男性は、下着の上に、白い行衣を着る。女性は、濡れても透けない服の上に、白い行衣を着る。
行衣の下はほぼ全裸なので寒いし、行衣にはスリット入ってて座り方によっては普通に下着が見えるしで、防御力はゼロ。ミニスカートで下着が見えないように頑張る女性の気持ちが少しわかった。
お百度参り
で、着替え終えたらお百度参り。簡単に言うと、裸足で行う短距離シャトルラン。
塩とお酒で身を清めた後、お百度参り専用のコースへ立つ。もちろん、外。寒い。
で、「南無大師遍照金剛」と唱える→端っこまで走る→「南無大師遍照金剛」と唱える端っこまで走る→エンドレス。
距離は長くないし、走る速度もゆっくり目なので、疲れはしなかった。ただただ、寒い。
滝行
で、お百度参りが終わると、小休憩の後、滝行へ向かう。
着替えとタオルをビニール袋に入れて、車に乗り込み、車移動。
登山
車で登山口まで移動し、そこからはプチ登山。スニーカー必須。
登山道は整備されておらず、落ち葉を被った泥道や、石の上を歩くことになる。そのうえ、片手は着替えとタオルの入ったビニール袋を持っている。
登山をほとんどしたことがない人は、滝に到着するまでで体力を消耗しそう。実際、滝行より登山の方が大変だったという人もいるらしい。
登山経験者のぼくは余裕だった。もう一回言うけど、登山経験者のぼくは余裕だった。
滝へ到着
で、十分か十五分歩くと、滝が見えてくる。滝から離れたところにビニール袋を置いて、サンダルに履き替えて、滝の側へ。動画撮影用のスマホも忘れずに。
で、順に滝に入っていく。
滝行
まずは滝の周囲に溜まっている水に入って、肩、胸、頭に水をかけて水に慣れる。
で、山の神様と滝の神様に挨拶した後、滝に入る。滝へのうたれ方は、3段階。それぞれ30秒。
- 壁に背をつけない位置で滝にうたれる
- 壁に背をつけて滝にうたれる
- 座って半身を水に浸けたまま滝に打たれる
滝に打たれながら、指導員の方が「南無大師遍照金剛」と唱えるので、その返事をするように「南無大師遍照金剛」と唱える。これを繰り返し、意識を保つ。というか、沈黙してると耐えられない。寒い冷たい。
滝行の効果
ちなみに、滝行の効果は以下。
天光寺の滝行・川行とは、行衣―衣服をまとい水・滝に打たれ、無我の中で自分自身を見つめる修行です。
天光寺公式サイトより引用
水・滝の自然の癒す力より、仕事の疲れやストレスが癒されます。
滝行中の感想
ぼくの滝行中の感情は以下。
「寒い寒い寒い寒い無理無理無理無理出たい出たい出たい出たい無理無理無理無理無理無理無理無理」
無我じゃなくて無理で脳内が埋め尽くされた。
ちなみに、滝に打たれてる間は、滝の音のせいで周囲の音が全く聞こえない。自分の声と指導員の方の「南無大師遍照金剛」しか聞こえない。
滝行終了
人生で最も長い1分30秒が終わり、滝から離れる。山の神様と滝の神様に感謝を述べた後、滝から上がる。寒い。
着替え
山奥に設置されたテントに入って、濡れた行衣を脱ぎ捨て、私服に着替える。現代社会に戻ってきた。温かい。
下山
しかし、修行は終わらない。なぜならここは、山奥の滝の前だから。
登山があれば、下山がある。
下山して、車に乗り込んで、天光寺へ戻る。
解散
ドライヤー
天光寺へ戻ると、ドライヤーで髪を乾かせる。一応シャワーもあるのだが、浴びないことを推奨された。
というのも、滝行の後は全身でマイナスイオンとか神様の気とかを纏っている状態。シャワーを浴びると、せっかくのありがたい気が流れ落ちるらしい。
気ってシャワーで落ちるんだ……と思いつつ、ドライヤーで髪を乾かす。
修行終了の挨拶
で、日帰り組は荷物を持って、大広間へ戻る。
仏様に修行を終えた挨拶をしてから解散。帰りのバスも一時間に一本程度しかないので、終わるタイミングは重要。
最後のスープ
で、帰ろうと思ったら、最後にスープを振舞ってくれた。体が温まる。
滝行で冷えた体には染み渡った。
感想
なかなか貴重な体験だった。初の滝行ということで、滝に打たれている間に自分と向き合うような余裕はなかったが、心には残った。
こんな厳しい修行を積んでいる方々には頭が下がるし、こんな厳しい経験の中で自分をコントロールできるようになれば、本当の意味で自分お感情をコントロールできるのではないかと思った。
また、来世くらいに経験したい。今世はもういい。